踏襲(とうしゅう)とは
「ねえ聞いてよ、白猫ちゃん」
「にゃん?」
「昨日、見てしまったんだよね」
「にゃ? オバケでも見ちまったのか?」
「違うよ! ウチが見たのはオッサンなんだよ」
「お産? 元気にゃ赤ちゃんでも生まれたのか?」
「違うよ! お産じゃなくて、オッサンなんだよ! まったく白猫ちゃん、聞く気ないんだね」
「まあ怒るにゃって・・・。で? オッサンがどうしたにゃん?」
「腕を組んで歩いてたんだよ」
「にゃん?」
「まるで恋人のようにオッサン同士が腕を組んで歩いていたんだよ」
「それは、オッサンぽい女の人じゃにゃくてか?」
「違うよ。50代後半くらいのいかにもオッサンて感じのオッサンだったの。ていうか、オッサンぽい女の人ってどんな奴なのさ?」
「にゃるほど、いかにもオッサンらしいオッサンかあ・・・」
「そうなの。そのオッサンらしさ溢れるオッサン同士が、恋人同士のように腕を組んで歩いてたんだよね」
「ひょっとすると、その同士ってのは実は『同志』なんじゃにゃいのか?」
「いや、意味がわからないんですが・・・」
「そうか・・・。にしても、キモい光景を見ちまったもんだにゃあ」
「え? キモい? 何を言ってるの?」
「にゃんだ? 俺は今、変なことを言ったのか?」
「キモいって何? あんなに可愛くて、愛くるしくて、微笑ましい光景のどこがキモいのさ? キモい要素なんてどこにもないよね? キモいと感じる要素なんて1ミリもないよね?」
「えっと・・・、可愛かったんだ」
「そうなんだよ! ウチはオッサン同士が腕を組んで歩いてる光景に、癒されたんだね!」
「そ、そっか・・・、まあ癒されたんなら結果的には良かったんじゃにゃいか?」
「いや〜、ほんと可愛かったなあ」
「ところで、ひよこ」
「なあに?」
「『踏襲』って言葉は知ってるか?」
「うん、知ってるよ」
「どんな意味にゃんだ?」
「先人のやり方や、説をそのまま受け継ぐって意味なんだね」
「ほう、受け継ぐねえ・・・。じゃあ伝言ゲームみたいなもんか」
「え、伝言ゲーム?」
「だって受け継ぐってことは伝言ゲームみたいにゃもんだろ。ま、伝言ゲームの場合途中から少しずつズレてっちゃうけどにゃ」
「踏襲の場合も少しずつズレは生じる気がするけどね」
「まあとにかく、踏襲ってのは『そのまま受け継ぐ』って意味なんだにゃ」
「そうだね」
「じゃあ例えば、『親の才能を受け継いでいる』って言葉に踏襲を使う場合は、『親の才能を踏襲している』ににゃるってわけだ』
「だと思うよ。ま、生物なんて踏襲によって作られているみたいなものだからね」
「踏襲によって作られている? にゃんだそれ?」
「例えば、ウチらはフライドチキンやチキンラーメンを食べて生きているよね。でもそれって色んな命を頂いて生きているってことでしょ? つまり、生物ってのは色んな命を受け継いでいる、色んな命を踏襲している、ってことだと思うんだね」
「にゃんだかよくわからねーが・・・、結局お前はチキンばっか踏襲してるってことじゃねーのか?」
「そ、そんなことないって・・・」
「まあとにかく、踏襲の意味は理解できたのにゃ。それにしても、ひよこ。お前はニャンでも知ってるにゃあ」
「ニャンでもは知らないよ、知ってることだけなんだね」
「元気出せよ。ちゅーか、やっぱりどっかで聞いたことあるようなセリフだよにゃあ?」
「いやいや、気のせいだって」
「そうかにゃあ? でもまあ、お前が言うならきっとそうなんだろうにゃ」
「じゃあウチはYouTubeが見たいから、もう行くんだね」
「YouTube!? お前そんなの見てんのか?」
「うん。瀬戸弘司ってユーチューバーに最近ハマってるんだよ」
「へえ〜、そうにゃんだあ」
「じゃあ、瀬戸弘司がウチを呼んでいるから、もう行くんだよ」
「おう、行ってこい!」