件(くだん)とは
「なあ、ひよこ」
「ん?」
「この辺りで、めっちゃ愉快なインド人を見にゃかったか?」
「はあ? なにそれ、どんな奴なの?」
「とにかく、めっちゃ愉快な奴だにゃん」
「インド映画の踊ってる人みたいな感じ?」
「そうにゃ。そんな感じにゃん」
「マハラジャ的な感じ?」
「そうにゃ。マハラジャ的な感じにゃん。ちゅーか、マハラジャってどういう意味にゃんだ?」
「さあ・・・、知らない」
「あれ・・・? お前はニャンでも知ってるじゃにゃかったのか?」
「いや、だから、ニャンでもは知らないの。知ってることだけなんだよ」
「あ、そうか・・・。じゃあ、『件(くだん)』て言葉は知ってるか?」
「もちろん」
「どんな意味にゃんだ? 今俺が読んでる本に『件の手品師』って言葉があるんだが、それってどういう意味なのかにゃあと思ってにゃ」
「簡単に言うと『例の』って意味なんだよ」
「例の?」
「うん。お互いの共通認識になっている事柄を話題にするときに使われる言い回しで、さっきの『件の手品師』だったら『例の手品師』って意味になるんだよね」
「にゃっはー、そうだったのかあ! ちゅーことは、『例の場所』だったら『件の場所』、『例の事件』だったら『件の事件』ってことか」
「そういうことになるんだね」
「でもよ、『例の件』ていう言葉があったとして『件の件』にしたらややこしくにゃいか? 口で言うならまだしも、文字にするとややこしくにゃいか? にゃんてゆーか・・・『山本山』みたいな感じにならにゃいか?」
「上から読んでも下から読んでも同じ、みたいな感じ? まあその時は『例の件』でいいんじゃないのかな?」
「そっか、そうだよにゃ」
「要はね、共通認識のある情報を一言で伝えるためのものなんだよ。つまり『件の手品師』の『件の』の中には『先日話題に上がったあの金遣いの荒い女たらしの』という感じの情報が詰まっているかもしれない、ということなんだね」
「へえ〜、にゃるほどねえ〜。しかしひよこ、お前はニャンでも知ってるにゃあ」
「ニャンでもは知らないよ、知ってることだけなんだね」
「・・・やっぱりそのセリフ、どっかで聞いたことあると思うんだが」
「いや、きっと気のせいだよ」
「そうかにゃあ? でもまあ、お前が言うならきっとそうなんだろうにゃ」
「じゃあウチはフライドチキンパーティーに呼ばれてるから、もう行くんだね。それじゃ!」
「え!? それってヤバくにゃいか!? それってお前がフライドチキンにされるためのパーティーなんじゃにゃいのか!? ちゅーか、百歩譲ったとしても、それは共食いパーティーにしかならないんじゃにゃいのか!?」